Ari's Lab

痛みに関する解説
2024/1/11 作成
この痛みの原因は何だろう、どうすれば早くよくなるだろう、と思うことや、痛みがよくなると思って自分で痛むところをさすったり動かしてたら、かえって痛みが強くなってしまった経験があるかもしれません。
そもそも痛みとはどういうものか、痛みの原因によって対応が異なるので痛みを見分けることや痛みの原因を探ることが必要なこと、痛みの早期治療・予防の重要性を解説します。
一般的に痛みの緩和は、炎症や強い痛みがあるときと炎症や強い痛みがないときで大きく異なります。
さらに、痛みを緩和するためには痛む部位にアプローチするだけではなく(あるいはアプローチするよりも)、体幹のインナーマッスルを使えるようにすること、アライメントを整えること(バランスを整えること)、足関節の機能をとりもどすこと、歩き方、座り方などが重要となることもあります。
例えば、足の裏が痛くなる足底腱膜炎は、痛みのある足底腱膜に直接アプローチしてもなかなかよくなりませんが、機能解剖学的に考えて足関節の機能を取り戻すように足部や下腿にアプローチすることで痛みが緩和しやすいです。
痛みの詳細では、実際の臨床でよくみる疾患や、知っていただきたい疾患をとりあげて解説します。
例えば、筋の過緊張が緩和されれば症状が緩和されやすい緊張型頭痛、胸郭出口症候群、膝蓋靱帯障害や膝蓋大腿関節障害などの膝周囲の痛み、日常生活やスポーツで多く発生してその後遺症が問題になりやすいものの足首を捻っただけと軽くみられがちな足関節捻挫とその後遺症、手術の報告が多く整形外科でも手術をすすめられやすいものの手術をせず改善する症例を何例も経験している足関節後方インピンジメント症候群(三角骨障害など)などがあります。
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痛みについて
|痛みとは
概要
・痛みは、痛みのある部位ではなく脳で感じています。
・痛みはいろいろな影響を受ける複雑なもので、さらに痛みの感じ方は個人によって大きく異なります。
・痛みなどなければいいのに、と思いがちですが、痛みは身体を守るために必要なサインです。


国際疼痛会議(IASP)によれば「痛みとは実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付属する、あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験」と定義されています。
骨折のように組織に損傷がある場合でも、そこで痛みを感じているわけではありません。
皮膚、筋膜、筋、骨膜、靱帯、関節包などの組織にある受容器(痛みセンサー)で信号をキャッチし、それが末梢神経を通って背骨の中にある脊髄に届き、そこから中枢神経を通って脳まで達して、脳で痛みを感じます。
つまり、痛みとは組織に損傷が起こっているか、まるで起こっているかのような嫌な感じを脳で感じている、ということになります。
痛みを感じるのは脳(イラストACの素材をもとにAri's Lab作成)
痛みは複雑
痛みは脳まで伝わる間に異常が生じて、本来の痛みより強く痛みを感じてしまうことがあります。
脳からは脳内麻薬とも言われる物質(内因性オピオイド)で痛みを緩和するシステムを持っていますが、そのシステムがうまく働かず、痛みを強く感じてしまうことがあります。
腕を失ったのに、ないはずの腕が痛むように感じる幻肢痛もあります。
アスリートが試合中に骨折してもあまり痛みを感じずにプレーができてしまい、試合が終わってから痛みを感じることもあります。
痛みを感じ続けることで痛みの負のスパイラル(悪循環)に陥ることもあります。
そのようなときは、痛みのスパイラルを断ちきることが必要です。
痛みが出ると交感神経が優位になり、その結果、筋は収縮して血流は低下し、さらに筋は過緊張となり、その状態がさらに痛みを強く感じさせ、交感神経が優位になる悪循環に陥る、ということが、痛みの負のスパイラルが起きる理由の一つと考えられています。
自律神経にはヒトが本来逃げたり戦うときに働く交感神経と、休んだり眠るときに働く副交感神経があり、交感神経と副交感神経のバランスで意識をすることなく身体の内臓や筋などを制御しています。
寝不足、ストレス、疲れなどがあると交感神経が優位になり、肩凝り、緊張型頭痛、腰痛などが起きやすいと考えられます。



交感神経が優位になると痛みを強く感じやすい
一方、副交感神経が優位になるように、ゆっくり息を吐いてください、とお願いすると力が抜けて、首肩や腰の筋が柔らかくなり、痛みが和らぐことはよく経験します。
痛みはいろいろな影響を受けるので複雑です。
痛みの個人差
痛みの感じ方には人それぞれです。
例えば肩凝りの場合、同じように肩周りの筋に硬さがあったとしても、とてもつらいと訴える方と、とくに肩凝りを感じず、その肩凝りが原因となる緊張型頭痛になってからクリニックにかかる方もいます。
また、強いマッサージでもあまり痛みを感じない方、それほど強くなくても痛みを感じたりもみ返しがきてしまう方、その差はとても大きいです。
同様に、鍼施術をするときに太めの鍼でも痛みをあまり感じない方、細い鍼でも痛みを強く感じる方、息をゆっくり吐いてリラックスしている間に刺入すれば痛みをあまり感じない方などいろいろです。
それぞれ個人の痛みの感じ方に配慮して、鍼やマッサージの刺激量を調整する必要があります。


このように痛みの感じ方には個人差が大きくみられます。
痛みは必要?
つらい痛みが続くと、痛みをどうにかして欲しい、痛みがなければ楽なのに、と思うかもしれません。
しかし、痛みは身体が発する警報で必要なものです。


生まれつき痛みを感じることができない先天性無痛無汗症という疾患があります(難病情報センター)。
痛みを感じないため身体をぶつけても骨折しても気づかず、多くのけがを繰り返してしまいがちだそうです。
痛みを感じるからこそ、けがをしないように痛みが出ないように身体を調節することができるので、痛みは身体を守るために必要なものなのです。
|痛みを見分ける
2024/1/14 作成
概要
・整形外科系の痛みは動かしたときに痛みが強くなり、内科系の痛みは動かさなくても痛むことが特徴です(例外もあります)。
・骨折は骨粗鬆症がある場合や、繰り返し負荷がかかることにより生じる疲労骨折にも注意が必要です。
・整形外科系の痛みでも、外傷か障害か、炎症の有無、痛みの程度や経過、原因によって対応は異なるため見極めは大切です。
この痛みは何だろう?
痛みの原因はいろいろいありますが、整形外科にかかったらいいのか、内科にかかったらいいのか迷うこともあるかと思います。
整形外科にかかるのは筋骨格系の痛みですが、基本的に動かしたときに痛みが強くなることが特徴です。
一方、内科にかかる内臓系の痛みの場合、けがをしたわけでもないのにじっとしていても痛みがあったり(安静時痛)、どのような姿勢でも痛みが楽にならないことが特徴です(ただし例外もあります)。
けがをして骨折、靱帯損傷など組織が損傷して炎症がある場合も安静時痛が生じますが、体重をかけたり動かしたときにより強く痛むところが内臓系の痛みとは異なるところです。
骨折が疑われる場合、転倒して頭を強く打った場合は、整形外科や脳神経外科にかかると思います。
骨粗鬆症になりやすい高齢女性やがん治療の副作用で骨密度が低下している場合は、強い衝撃ではなくても骨折しやすいので注意が必要です。


アスリートの場合、小さな負荷が繰り返しかかることにより生じる疲労骨折があります。
10代の成長期で腰部の伸展や回旋動作の多い競技では、腰椎の疲労骨折である腰椎分離症やその前兆(骨のヒビ)で腰痛が生じることがあります。
成長期に限られますが、腰椎が骨折して分離する前、前兆の段階で固定と局所安静で修復可能と言われているので、早めの受診をおすすめします。



また、女性アスリートは無月経に伴い疲労骨折が生じやすくなることもありますので、体脂肪の低くなりやすい陸上長距離選手、体操選手などは注意が必要です。


痛みの詳細をうかがう理由
痛みは外傷か障害か、また組織の損傷の程度、炎症の有無、経過、原因などにより対応が異なるので、それらの見極めは大切です。
そのため、施術を行う際には痛みの詳細をおうかがいします。
外傷とは一度の外力により組織の損傷が起こるけがで、骨折、脱臼、捻挫(靱帯損傷や断裂)、打撲、肉離れ、アキレス腱断裂、ぎっくり腰などがあります。
障害はいろいろな意味を持ちますが、ここではスポーツ障害のように同じ動作が繰り返されたり同じ姿勢が続くことにより、少しずつ生じる組織の微細損傷などによる痛みのことす。
筋筋膜性腰痛、ジャンパー膝ともいわれる膝蓋靱帯障害や膝蓋大腿関節障害障害、アキレス腱障害、テニスのバックハンドなどで生じるいわゆるテニス肘、変形性関節症、足底腱膜炎など多くあります。












実際の臨床では、外傷か障害が分かりづらいケースもあります。
何もしていない、きっかけはないとのことで障害かと思ったもの、痛みが強く経過が悪いのでよくよく話を聞いてみると、もしかしたらあの運動の後に痛みが出たかも…と肉離れのエピソードが出てきたこともあります。
また、明らかなきっかけはないものの軽度の外傷のような組織の損傷が疑われる場合もあります。
どのような痛みかを見極めるため、きっかけはありますか、思い当たる原因はありますか、最初に痛みを感じたのは何をやっているときでしたか、じっとしていても痛みますか、温めると痛みが強くなりますか、痛みの部位はどこですか(指1本で指せますか)、痛みの経過はいかがですか、今はどの動作で痛みが出ますか、などとおうかがいします。
さらに、仕事の内容や日常生活での負荷やスポーツの動作などを詳しくおうかがいするのは、痛みの原因や背景まで探って痛みを緩和し、再発を予防する対策を選択するためです。
|痛みの原因を探る
2024/1/11 作成
概要
・痛みを緩和するには、痛みの原因がどこにあり、なぜ痛みが生じたか、本質的な原因を知ることが大切です。
・本質的な原因を改善しなければ、痛みの緩和が難しかったり痛みを繰り返す可能性があります。
・例えば腰痛では、体幹のインナーマッスルを使えるようにすることやアライメントを整えることが必要となることが多いです。
筋筋膜性腰痛の原因は?
捻挫や肉離れなどは、痛みの原因は基本的に損傷している部位にあります(背景に別の要因が関連することは多々あります)。
一方、痛みの部位とは異なる部位に本質的な原因がある場合、その原因を改善しなければ痛みを繰り返す可能性があります。
腰痛を例に説明します。
腰痛には大きく分けると器質的疾患と機能的疾患があります。
器質的な腰痛には、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、腰椎分離症やすべり症、変形性腰痛、脊柱側弯症などがあり、いずれもレントゲンやMRI検査で痛みの原因となっている原因を特定しやすいものです(画像所見と痛みが一致しない場合もあります)。
神経の障害を伴う場合は、下肢のしびれや痛み、感覚鈍磨(感覚が鈍いこと)、筋力低下などを伴う場合もあります。
それに対し、機能的腰痛は画像では特定が難しい非特異的腰痛ともいわれるもので、筋の過緊張による筋筋膜性腰痛が含まれます。
臨床で多くみられるこの筋筋膜性腰痛も、単純に痛みのある部位にアプローチすればよくなるかというと、必ずしもそうではありません。
腰痛の中には体幹深部にある腹横筋など、いわゆる体幹のインナーマッスルがうまく使えず、腰部にある脊柱起立筋や多裂筋などを使いすぎているケースがよくみられます。
その場合、腰の筋過緊張を緩和するとともに、体幹インナーマッスルをうまく使えるようにすることが必要となります。


骨盤が前傾位なりすぎている、回旋位(左右にねじれている)になっているなどのアライメント不良がある場合には、その原因となっている部位を探して骨盤のアライメントを整える(バランスを整える)必要があります(いわゆる骨盤矯正とは異なります)。
使い方に問題があると考えられる場合、例えば、腰を反らせて使う習慣がある、意識的によい姿勢をとろうと腰椎前弯や骨盤前傾位をとっている、痛みのため無意識に腰に力が入ってしまう、座る姿勢や歩き方に問題がある場合などは、その改善を試みます。


腰椎前弯+骨盤前傾
(ACイラストの素材をもとにAri's Lab作成)
足関節捻挫後に足関節の不安定性が残ってぐらつきやすい場合や、その不安定性を補うために足腰に力が入り過ぎている場合には、不安定性を改善することが必要で、そのために体幹インナーマッスルをうまく使えるようにすることや、足関節の機能を取り戻すことが有効となる可能性があります。


足関節の不安定性
(イラストACの素材をもとにAri's Lab作成)
足関節の不安定性がなくても、足関節に硬さが残り足関節の背屈可動域が低下した結果、代償として腰部が過伸展となり痛みが出たり、足関節や足部で衝撃を吸収できず腰部周囲に負担がかかることもあります。
その場合にも、足関節の背屈可動域が出るようにアプローチし、足関節の機能をとりもどす必要があります。

Ari's Lab / Pain Lab

Ari's Lab / Pain Lab
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背屈可動域○ 背屈可動域低下
(Ari's Lab作成)

痛む部位に原因があるのか、あるいは他に原因があり結果として痛みが生じているのかを推定し、さらになぜそのようなことが起きているのか、日常生活やスポーツでの身体の使い方など背景も把握することは、痛みの本質的な改善や再発予防のために有効です。
どうしたら早く症状がよくなるかを考えながら臨床をやる中で、痛みのある局所だけではなく、アライメントを整えることや、足関節捻挫とその後遺症などの既往歴を考慮し、足関節の機能を取り戻すことの重要性を強く認識するようになりました。
その中で見出した機能解剖学的なアプローチについては、痛みの緩和で解説します。
|痛みの早期治療・予防の重要性
2024/1/11 作成 2024/02/14修正
概要
・痛みは軽いうちに早めに治療や対策をとる ”早期治療" が大切です。
・痛みを我慢して無理し続けると組織の損傷が進んで痛みは強くなり、修復に時間がかかル場合があります。
・再発予防の対策も大切で、さらには痛みが出る前に "予防" できることが理想です。
痛みがあっても、そのうちよくなるだろうと様子をみていたり、仕事を休めず痛みを我慢しつづけた結果、痛みが強くなり治るのに時間がかかった経験があるかもしれません。
また、スポーツをやっていると競技を続けたい、練習を休みたくない、レギュラーを失いたくない、などの気持ちから、つい無理をしがちです(その気持ちはよくわかります)。
しかし、痛みは早めに治療や対策をとり、悪化や再発を防ぐことが大切です。
なぜなら、組織の損傷が進むとその修復には時間がかかるからです。
例えば、ふだん行わないような激しい運動をした後、筋肉痛になることがあります。
筋肉痛は筋の微細損傷ですので、その損傷の程度が軽ければ2、3日でよくなりますが、ひどい場合にはよくなるまでに1週間以上かかることもあります。
筋そのものが断裂する肉離れになると、損傷の程度によりますが、回復に数週間かかることもあります。
また、筋は疲れがたまると伸び縮みがうまくいかなくなり、筋が縮んで短くなった筋短縮が起きやすくなります。
筋短縮は関節可動域の低下やアライメント不良を起こし、それが間接的に痛みの原因になるだけではなく、鵞足炎、膝蓋靱帯障害や膝蓋大腿関節障害などのように直接痛みの原因になることもあります。
筋短縮が長く続いて筋の組織が変性した場合には、元のよい組織に戻るためには時間がかるといわれています。
例え痛みがなくても筋の疲れをとり、筋短縮を改善することは、痛みを予防する助けの1つになるでしょう。
下の図は、フィンスイミング競技に関わる方に早期治療と予防の重要性を説明するために作成した図です。



フィンスイミングにおける早期治療と予防の重要性
(Ari's Lab作成)
痛みがなければよい状態で練習を続けることができ、適切な練習を行えばベストタイム更新に近づくでしょう。
また、軽い痛みがあった時点で痛みの緩和や再発予防ができていれば、復帰への影響は小さいでしょう。
しかし、強い痛みになった場合、よいコンディションに戻すまでに時間がかかる可能性があります。
また、痛みを我慢しながら練習を続けているうちに無意識に痛みをかばい、フォームが崩れたり他の部位に痛みが出ることもあります。
さらに、痛みが強くなると長期間練習ができなくなり、場合によっては手術が必要になるかもしれません。
また、最終的に競技をあきらめて辞めるという選択をせざるをえない場合もあります。

痛みの再発を防ぐには、痛みの原因を探る必要があります。
さらに、理想的には痛みが出ないように予防することです。
どのようにすれば痛みの再発や予防をできるのか、その情報が重要です。
生活やスポーツに必要な筋の柔軟性、関節可動域、筋力、必要なタイミングでの筋力発揮、身体の使い方、道具の選び方、道具の使い方、フォームなど多くの要因が関連すると考えられます。
その中の1つとして、アライメントを整えることも予防策の一つになる可能性があると考えています。
このように早期発見や予防の重要性を訴えるのには理由があります。
私の想いでも述べましたが、私自身が膝の痛みを我慢しながら走り続けた結果、トライアスロン競技を続けることができなくなり、フィンスイミングでは足首の痛みを抱えながら無理をして泳いだ結果、手術を経験したからです。




ランニングによる膝の痛みは、2か所の病院でレントゲンやMRI検査をしたものの原因が分からず、走るのは無理と言われ、泣く泣くトライアスロン競技をあきらめました。
しかし、今となればオーバーユース(使いすぎ)による膝蓋靱帯障害や膝蓋大腿関節障害で、早めに下肢の筋の過緊張を緩和していれば痛みはひどくなることなく、トライアスロン競技に復帰できていたはずです。
限られた時間で3種目の練習をする中で疲れをとるケアを怠っていましたが、もし、疲れをためないように適切なケアができていれば、そもそも走れなくなるような膝の痛みは出なかったと思います。
フィンスイミングによる足関節後方部の痛みは、病院でもなかなか原因がわかりませんでした。
いつよくなるのかわからないままリハビリを続けることにストレスを感じて大きな病院を紹介してもらい、足関節後方インピンジメント症候群(有痛性三角骨障害)である可能性が示され、手術により折れかけた骨を除去することで痛みは消失しました。
足関節後方インピンジメント症候群は手術の報告が多く、手術をしない保存療法の報告が少ないのですが、これまでフィンスイマーをみる中で、足関節後方インピンジメント症候群は手術をせずよくなるケースが多いことがわかってきました(フィンスイミングによる痛み参照)。
さらに、足関節後方インピンジメント症候群は足関節捻挫後に生じやすいことから、もし足関節捻挫に対する適切なリハビリとフィンスイミングに必要な筋力強化を行えていれば、足関節後方インピンジメント症候群そのものも予防もできたのではないかと考えています。
このような経験をしてきたからこそ、スポーツを楽しんだり、真剣に競技に取り組むアスリートが痛みのために練習を長く休んだり競技をあきらめることなく、早期復帰や予防できるサポートをしたいと願っています。

痛みの緩和
2023/12/28 作成 2024/02/19修正
|はじめに
痛みは身体を守るために必要なものですが、痛みがある場合、早く痛みがなくなって欲しいと思うものです。
痛みの緩和について、一般的なな考え方と機能解剖学的な考え方について解説します。
一般的な痛みの緩和には、炎症や強い痛みがあるとき、炎症や強い痛みがないとき、体幹インナーマッスルを使えるようにする方法を紹介します。
機能解剖学的な考え方は、アライメントを整える ー骨の偏位や可動性の改善ー、足関節の機能を取り戻すについて図を交えて詳しく解説します。
アライメントを整える方法は、これまで学んできた解剖学や私が臨床を行う中で仮説をたて、再現性を確認しながら見出した知見からなります。
私自身が足関節の痛みやその周囲の不調に悩んだこと、フィンスイマーをサポートする中で足関節の痛みをみる機会が多かったこと、フィンスイミングの外傷・障害予防の研究のため大学院博士課程で足関節に関する研究を行ってきたこと、さらに臨床を重ねる中で、足関節の機能を取り戻すことの重要性と、それがアライメントを整えることに影響を与えることもわかってきました。
痛みは、必ずしも痛む部位に原因があるとは限りません。
もし、アライメント不良(バランスが悪い状態)がある場合、まずその原因、具体的には筋の短縮や組織の可動性低下などを突き止めて骨や組織の可動性の改善をさせてアライメントを整え、その後、痛みのある部位やその周囲にアプローチをしていく方が効果的だということを臨床を重ねる中で強く感じるようになりました。
この機能解剖学的な考え方を自分の中である程度確立してからは、以前は苦労していた痛みが解決しやすくなり、これまで臨床でわからなかった現象が納得できることが増え、骨の偏位や骨・組織の可動性の評価は、関節可動域、筋力、歩行などの評価とともに臨床上欠かせないものとなりました。
しかし、痛みとはで述べたように、痛みの原因は内科疾患も含めていろいろあり、さらに痛みは複雑でさまざまな影響を受けるものです。
医療機関で多くの検査をしてもなかなか原因がわからない痛みもあります。
また、痛みの回復は損傷の程度や年齢によっても異なり、日常生活やスポーツで負荷がかかり続けていれば痛みの緩和は難しくなることもあります。
ここで記載した内容を参考にしつつ、医療機関や専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
|炎症や強い痛みがあるとき
2023/12/28 作成 2024/1/25修正
概要
・外傷などで熱感、発赤、腫脹、疼痛など炎症症状がみられるときは、痛む部位を安静にし、RICE処置を行います。
・炎症症状や強い痛みがあるときは、痛みが出ないように痛む部位を固定したり痛む動きを避けることが必要です。
・慢性的に生じた痛みでも痛みが強い場合は、外傷と同様に痛む動きや痛む部位に直接アプローチすることは避けます。
炎症や痛みがあるとき
捻挫(靱帯損傷や断裂)や肉離れ(筋や筋膜の損傷や断裂)など、外傷の急性期(炎症期)には患部のアイシングなどRICE処置をしたり消炎鎮痛剤で痛みを緩和すること、そして固定などの局所安静や痛む動きを避けることが必要です。

・炎症が起きると、発赤、熱感、腫脹、疼痛の4つの兆候がみられる
・発赤がみられず、熱感、腫脹、疼痛のみのときもある
・動かさなくてもズキズキ痛む、温めると痛みが強くなるのも特徴

外傷の急性期に行うRICE処置

固定と松葉杖使用による局所安静
肉離れの場合、発赤や熱感がなくても固定などの局所の安静が必要です。
ときどき、動かした方が早くよくなると思っている方がいますが、筋や筋膜が切れている状態ですので、動かすとさらに悪化し、治りが遅くなりやすいので注意が必要です。
寝違いやぎっくり腰でも、痛みが強いときには痛む部位を固定する、鎮痛消炎剤を使用する、痛む動きを避ける、痛む部位に直接アプローチしないなどの対応をします。
ただし、アライメント不良があり、それが痛みに影響していると考えられる場合には、患部外へアプローチをし、アライメントを整えることで痛みを緩和できる場合があります。
さらに、外傷だけではなく慢性的に生じる障害でも炎症がみられる場合には、アイシング、鎮痛消炎剤の使用、患部が痛まないように固定する、痛む動きを避ける、痛む部位に直接アプローチしないなどの対応は、悪化を避け、早くよくなるために大切です。
例えば、腱障害で痛みが強く腱の部分に熱感や腫脹がみられる場合、痛みのある腱の部分に直接アプローチすると悪化するリスクがあるため、腱ではなく筋腹にアプローチし、痛みの緩和と治癒の促進を試みます。
軽症であれば痛みの緩和が期待できますが、痛みが強い場合や経過が長い場合などは、痛みの改善に時間がかかる可能性があります。

筋腹
↓
腱
↓

腱
↓
腱障害の模式図
(イラストACの素材をもとにAri's Lab作成)
他にも、頸椎症や腰椎椎間板ヘルニアのような神経性の痛みも、強い痛みが生じる場合があります。
しびれ、感覚鈍麻(感覚が鈍くなること)、筋力低下を伴う場合には、医療機関を受診することをおすすめします。
|炎症や強い痛みがないとき
2023/12/28 作成 2024/1/29修正
概要
・使いすぎによる痛みが筋の過緊張や短縮によるとみられる場合、筋過緊張の緩和や筋短縮の改善が痛みの緩和につながります。
・筋過緊張の緩和や筋短縮の改善には、温めたり動かして血行をよくする、ストレッチ、マッサージ、鍼などがおすすめです。
・ストレッチはセルフケアとしておすすめですが、安全に効果をだすためには ”こつ” があります。
オーバーユース(使いすぎ)による障害のうち、筋の過緊張や短縮がみられる場合は、筋過緊張の緩和や筋短縮の改善が痛みの緩和につながる可能性があります。
筋を使いすぎるとが過緊張となって筋は硬くなり、さらに筋が短縮すると関節可動域は低下し、関節の動きが悪くなります。
また、筋短縮は腱障害(アキレス腱障害、腓骨筋腱障害など)、腱の付着部炎(いわゆるテニス肘、鵞足炎など)、骨膜の痛み(いわゆるシンスプリントなど)を引き起こす可能性があります。
その筋の過緊張を緩和するためには血流をよくすることが有効です。
ただし、炎症があるときに温めると炎症が強くなり、痛みが増悪する可能性があるため注意が必要です。
筋の短縮の改善は経過が長いと筋組織に変性が起こるため、時間がかかる場合があります。


筋の短縮
筋過緊張緩和や筋短縮の改善方法
1)温める
血流をよくすることで筋の過緊張が緩和されやすくなりますが、そのために最も手軽な方法は温めることです。
温める方法として、使い捨てのカイロや湯たんぽを使う、医療機器であればマイクロ波やキセノン光線などによる温熱療法、軽い運動などがあります。
入浴は全身を温めて血流をよくする効果と、リラックスして副交感神経を優位にすることが期待されます。
リラックスして身体の深部まで温めるためには、38~40℃くらいのお湯にゆったりとつかることがよいと言われています。

適温のお湯にゆっくりつかり、じわっと汗が出てくれば身体の深部まで温まっている目安になります。
熱すぎるお湯は交感神経が優位に働き血管を収縮させるため、血流をよくしたりリラックスするには適さないといわれています。
可能であれば好きな香りや入浴剤を使ったり、ゆっくりリラックスする時間を過ごす工夫をしてもよいと思います。
2)ストレッチ
筋の過緊張緩和を目的としたセルフケアとして、道具を使わずどこでもできるストレッチはおすすめです。
ただ、ストレッチにはこつがあります。
誤った方法でストレッチを行うと、かえって悪化したり筋腱を痛める可能性があるので注意が必要です。
ストレッチには動かさずにじわじわ伸ばす静的ストレッチと、体操のように動かしながらやる動的ストレッチがありますが、筋の過緊張を緩和を目的とするのであれば、静的ストレッチ(以後ストレッチと表記)が安全でおすすめです。

ふくらはぎのストレッチ
(イラストACの素材をもとにAri's Lab作成)
患者さんにふだんやっているストレッチの方法をお伺いすると、痛みが出るくらいしっかり伸ばし、息を止めて力を込めている方がいらっしゃいますが、それはあまりおすすめできません。
なぜなら、筋腱は勢いよく伸ばされると腱反射が起きて縮むため筋が伸びにくくなったり、無理に伸ばすと筋膜や筋腱を損傷する恐れがあるからです。
実際、ストレッチやヨガで肉離れ(筋膜や筋腱の損傷)になった方をみたことがあります。
ぜひこのストレッチのこつを知って、安全に効果的なストレッチをしていただきたいです。

